隙間時間のためのベスト盤的読書
村上龍が「僕はベスト盤が好きだ」というのを読んで、驚いたことがあった。
当時僕は中学生で「レコードはアルバムトータルで聞くもの」と思いこんでいて「ベスト盤は邪道」と見なしていた。あの時は、同じレコード(LP)を、100回以上聞くほど時間があったのだ。
今でもアルバムで聞かないと「なんだかなぁ」と感じるアルバムもあるが、曲単位で聞くことが多くなった。デジタルで、サンプリングで、リミックスな今、アルバム単位で音楽を聞く方が少ない。
ベスト盤も好きです。
読書も同じかもしれない。140字になれた身には140ページの本ですら長すぎる!
今日は、そんなベスト盤的読書に最適な本を紹介したい。
では、読書において、ベスト盤とはなにか?
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まず、歴史本。
そこで一冊目。『経営戦略全史』である。
↑ これをみると、読者が選ぶ2013のベスト経営書らしいので、手にした人も多いかもしれない。しかし、この本を全部に読んだ人は少ないのではないか。
正直いうと、僕も半分しか読んでいない。
この本の副題は”50 Giants of Strategy”。
経営戦略論50人の巨人を、一人約4ページで紹介している。当然一人あたりの説明は浅いが、それにより経営論の大きな流れがわかりやすくなっている。
ベスト盤として、この本はどう読むべきか?
【STEP1】全体の流れをつかむために、「①はじめに」、そして「②369ページからの7ページ」を読む。
②では、あの分厚い本を書きまくった経営戦略の巨人たちが、一人一行でまとめられている。この本の価値の核は、筆者の視点で戦略史を完結にまとめたこの二か所にある。
あなたのまわりに「戦略と言えばポジショニング」というようなポジショニング・バカがいる場合にはここを読ませよう。
「ポジショニング派からケイパビビリティ派を経て、アダプティブ派が生まれた」という経営戦略超カンタンまとめによって、少しは静かになること請け合いである。
【STEP2】次に、目次をみて気になった人のページをパラパラめくる。
【STEP3】本棚にしまっておいて、何か気になった時にレファ本として使う。
以上。
いつ、どこから読んでも問題のない本なのだ。
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ベスト盤的書物のもう一つに、書評集がある。
そして、今日の二冊目が楠木建『戦略読書日記』。
『ストーリーとしての競争戦略』は読んでいても、こちらを読んだ人は少ないのではないか。『戦略読書日記』というタイトルも、『ストーリー~』にあやかろうという感じがして、少しあざとい(笑)。
しかし、それで読まないのは、あまりにもモッタイナイ。
この本は、今最も旬な経営学者が、
僕の思考に大きな影響を与えた本を厳選し、
それらとの対話を通じて僕が受けた衝撃や知的興奮、発見や洞察を読者の方々にお伝えしたい。
として書いた本なのである。
取り上げている本のテーマはいろいろ。共通点は楠木が「おもしろい」とおもったということだけ。それが読み手の関心領域を拡げてくれる。
以上なのだが、さすが、これでは手に取りづらいと思うので、内容を一部だけ紹介する。
ここで紹介するのは、16章のトヨタ生産システムについて書かれた本、藤本隆宏『生産システムの進化論』。
これは、経営戦略史的にいうと、組織能力(=ケイパビリティ)についての本だ。
カイゼン、ジャストインタイム方式、多能工など、トヨタが創出した優れた仕組みがどのように創発されたのか、そのプロセスについて掘り下げている。
藤本によると、これらの創発は、フォードの真似ができなかった当時のトヨタが制約のある環境の中で産み出した、「怪我の功名」であって計画してつくられたものではない。
では、なぜそれがあれほどまでに優れた仕組みになったのか。キーコンセプトが「二段階の問題解決プロセス」である。
第一段階では、事前に解が確定していないので、とりあえずさまざまな解が試される。……それを受けた第二段階のサイクルとして、偶発的に湧きあがってきた解を競争のための能力の体系に変換する意図的経営のプロセスがある。
つまり、一段階目に「うまくいったこと」の成功要因を合理的にみて(事後合理性)、二段階目のプロセスで、解の持つ潜在的な可能性を徹底して磨きぬいて形式化して再現可能にしていく。これが組織の事後能力であり、トヨタの創発プロセスの肝だ。
この「事後合理性」「二段階の問題解決プロセス」という概念は汎用性が高い。
たとえば、日常業務でのPDCAをまわす時に、通常は事前に設定したチェックポイントをみるだけでなく、事後合理性の視点から「使える偶然」をみつけ、それを必然に変えるための視点を持てるようになる。
キャリアプランでも、新卒での就職がうまくいかなくても、その仕事の中での小さな成功や興味をもったことを合理的に振り替えって、二段階目のキャリアをつくればよい。
そもそも何かにチャレンジする時に、一度でうまくいくことなんてほとんどない!
重ねていうが、テーマはいろいろ。アメリカの強面経営者の哲学、「仁義なき戦い」ライターの脚本論(←おすすめ)、銀座の伝説のママなど、21冊の本が取り上げられているので、目次を見て読みたいものを選べばよし。
一冊あたり10ページ。10分で読めます!
§
この二冊のベスト盤本に共通するのは、筆者がキュレーターである、ということだ。
”今の筆者自身の視点”から、経営論や本の中の「おもしろいところ=価値」を抜き出して、今の読者にあうようにカタチを整え、磨いて並べてくれているのである。
原書よりわかりやすくおもしろいのは、ある意味では当たり前だ。
そして、”筆者の視点”を隠していない。
「人は誰かのことを語ることでしか、自分のことを語れない」というが、まさにこれらの本の中には、筆者の人となりが顕れている。だからおもしろいのだ。
本の内容紹介に留まるダメ書評とは対象的である。
さらにいうと、今はキュレーション、編集のニーズ高い社会だ。
過去からの蓄積で、情報やコンテンツはあふれていて、その多くは埋没している。
その埋没する情報を取り出して価値にする編集の役割が求められている。
このようなまとめ本を読むと、その編集の仕方が参考になるというメリットもある。
一冊で何度もおいしい。
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今日は、細切れ時間で読めるベスト盤本二冊を紹介しました。
忙しい中の隙間時間でも軽く読めます。
内容に定評ある本を、今の視点で編集していて、品質は保証付き。
「本は全部読まないでいい」とわかっていても、つい頭から読んでしまう方にも最適です。
電子書籍デビューにも向いてます。
以上、これまで!