アイデアの根

読んだ人に「得した」と思ってもらえるように、普段より一ミリだけ深く考えて書きます。ソーシャル、マーケティング、リサーチ、が主要テーマになる予定です。

自分の頭で考えない! 思考のアウトソーシング

生産性の高め方

先日のブログで書いた「なめらかな社会とその敵」はちょっとしたブームになっているようで、昨日、代官山TSUTAYAでも専用コーナーをつくって紹介されていた。そこで筆者の清水健が過去に書いた書籍も並んでいて、普段なら絶対に買わないであろう「究極の会議」という本を、つい手にとり買ってしまった。
「究極」というネーミングとか、装丁の感じが「買ってくれ!」とのプッシュが強く、あまりにもビジネス書な感じだった。「なめ敵」を読んですぐというタイミング、そして業務における生産性向上に対する問題意識が高まったタイミングがあわさらなければ、絶対に、絶対に買わなかっただろう。しつこいけれど。
内容は悪くなかった。「いい議事録をつくることに集中し、議事録ドリブンな会議を行う」というもの。会議で実践することを考えると、これくらいシンプルなのがよい。
 
さて、僕の問題意識について。こちらが今回の本題。
僕のまわりでは、昨年ぐらいから加速度的に業務が忙しくなっていて、疲弊しきっている人が多い。
今の状況を乱暴に整理すると、「長引いた不況」による組織経営のスタンダード変化といえる。
①不況→②仕事単位当り利益率の低下→③社員数の減少、にも関わらず業務量は増大。ポイントは、仕事当りの利益率が下がると、社員は減るのに業務量は増えるということだ。そりゃ、忙しくもなるわ。
不況下で緊急措置として人員削減した企業は、仕事が増えても人を増やしていない。不況下での緊急措置だったはずのものが、すでにスタンダードになっているのだ。他の会社をみても、同じような状況のようだ。人口減少により縮小が予想される日本市場と、グローバル競争環境を踏まえると、すぐに人を増やすことは難しいと判断するのだろう。
ここで本質的な課題は「②仕事当り利益率の向上」にあるのだが、そんなことはみんなわかっていて、イノベーション、イノベーションとうるさいのはそのためだ。しかし、イノベーションとは本来的に簡単ではない(簡単にできるようならイノベーションではなく、すぐにライバルも実現し競争に巻き込まれ、利益率が下がる)。
僕たちホワイトカラーの「雪かき」労働者は、イノベーションを目指しつつ、「雪が積もる前」に生産性を高めて目前の仕事を推進しなければならない。やれやれ。
 
そのためにどうするのか? 
 
「思考のアウトソーシング」である。
 
今、僕たち(これを読んでるあなたも)非常に多くの時間をネット空間で過ごしている。何かを調べる時に検索するのが当たり前になっている。事実上、ネットが外部脳として機能しているということだ。岡田斗司夫によると、最近の若者には「自分の本音をネットで探してくる」という行動もみられるそうだ。「自分」というものはネット上にある、というこだ。これは、本当に驚くべきことなのだが「自分がいいたいことをネットから探してくる」という行動は、実際によくみられることだろう。
 
そもそもでいうと、「考える」にはまず言葉を使う。この言葉は過去の人たちが創りだしたものだ。自分だけしか通じない言葉に意味はない。(ヴィトゲンシュタインの私的言語論)。エスキモーには7種類の雪がある、といわれるように僕たちの思考は言葉の構造に支配される。また、僕たちが使う概念、定理もまた、あなた以外のだれかが創りだしたものだ。つまり、「考える」ということは、「自分以外の誰かがつくりだしたものをつかって、今の状況にふさわしい意味を導き出すこと」に過ぎない。そうであれば、「ネット上から今の状況で自分がふさわしいと思う発言を拾ってくる」ことと、どれほどの違いがあるだろうか。
僕たちは、「巨人の肩に乗って」いるのだ。隣人の肩の上にのってもよいだろう。どうせ隣人もだれかの肩の上に乗っているのだ。(もちろん、このブログが、だれかがどこかで言ったことの組み合わせに過ぎないことは、言うまでもない)
 
というわけで、目下「思考のアウトソーシング」について考えている。それがなぜ『究極の会議』に結びついたのかというと、思考のアウトソーシング先として①ネットワーク脳と②同僚脳、③自分の過去脳を考えていたからだ。
この②同僚脳は、Onlineではなくリアルな隣人の脳である。このリアルな脳の利点は、ア)対話できる、イ)同じ脳を継続して使えるので、説明の手間が省ける(「あの人ならなんて考えるだろう」と思った時に使える)、ということだ。 
 
ア)の対話は、特に重要。会議は、仕事における生産性低下の代名詞ともいえるが、これは参加メンバーが複数になるために話が脱線するからである。一人が議題に関係ないことをいって、さらにもう一人がそれを別の話にもっていって、ということがよくある。この「事前に思いもつかなかったこと」が連想によって引き出される、ということが重要な対話の機能なのだ(これを上手く使おうとしたのが、ブレーンストーミング。でもうまく実施するのは本当に難しい)。先日ニュースになっていたが、YAHOO!が在宅勤務を禁止したのも、対話のイノベーションを重視したからだ。アメリカのイノベーティブなデザインコンサルタント会社IDEOでは、ブレストを頻繁に行う。アイデアの開発に対話が重要だと考えているからだ。ここでは、アイデアは個人のものではなく、みんなのものと考えられている。同じくアイデアを重視する博報堂研究開発局の『気づく仕事』でも、「共同脳を使う」打ち合わせについて語られている。
 
というわけで、僕は普段は絶対に買わないであろう『究極の会議』を買った。今、僕はネットワーク脳と同僚脳の使い方を実験中である。
 
tanakata11